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「ルルーシュ、おフロはいろうよ。」
声高にスザクが呼ばわる。
別にお風呂は嫌いじゃない。嫌いじゃないはずだ。何故だろう、ネコの身体で湯を浴びるとき、死にそうな気分になるのは。
でも、はじめにシャワーの熱気にあたって倒れそうになった自分に気がついて以来、スザクは自分用にたらいを用意してくれている。
たっぷりの湯に首までゆっくり身を浸して身体をほぐし、それからあがる。それだけの習慣である。シャンプーは石鹸で十分だということでお断りさせていただいた。
今日もスザクは自分がしっかりお風呂で身体を洗ってから、ルルーシュを呼んでいる。
ちなみにこのときはいつでも腰タオル状態である。それもいい加減見慣れた。
しつこいが言っておく。決して風呂が嫌いなわけではない。現に一応、迎えに来るまでおとなしく待っている。動かないのは、足がすくんで動けないわけじゃない。ないったらない。
‥‥‥だがしかし、今日もルルーシュは上からひょいっと摘み上げられるまでなんとなく返事もできないのであった。
首根っこを掴まれて宙に浮いていることで、きゅっと反射で後ろ足が縮み上がる。
あわあわにした手でスザクが背中を擦ってくるのはあまり嬉しくないのだが、世話になる身である、ぐぐっと我慢する。確かに埃臭いネコが自室にいるのは可愛そうだ。
あまり人に触られるのは好きではないのは変わりなく、総身がプルプルと震えるのはどうにもとめられない。
ついその事に気が行ってしまって、スザクがすっかりやに下がっている事にルルーシュは気がついていない。
耳の周りとか、尻尾の付け根とか、さわられたくないところが多すぎるのだ。
「ルルーシュ、流すよ。」
「に。」ルルーシュは息を詰める。
手桶の湯がざぶざぶと流れる。小さな手桶なのだが、たいがいにおいて‥‥勢いに負けそうになる。あまりのことにピスピスと鼻の音がする。
「さ、どーぞ。」
湯が張られたたらいの真ん中にちょこんとルルーシュが座る。
「にあ。」
ふう、っと安堵の息が洩れる。
スザクはまことに幸せそうなカオをして、湯船のへりに肩で寄りかかっている。
スザクの指がルルーシュの背中を撫でてくる。あんまり嬉しくないのだが、スザクは一向にやめようとしない。行為がエスカレートするわけでもないので、ルルーシュは我慢している。
というか。自分が首までつかっているのに。 スザクは腰までしか浸かってない。ルルーシュも知っている肩までしっかり浸かるタイプの日本の浴槽とは違う、ブリタニアの洋式バスタブではそれであたりまえだし、いたしかたないことなのだが。おかしな気分だ。
「にあ。」もう少し湯を足してしっかり肩まで浸かれ。
言うだけは言ってみる。だってこれではスザクの疲れが取れない。
「うん。」
スザクが幸せそうな顔して頷いている。いつものことだ。まったく、コイツはいつも、頷くだけなのだ。
「にあ。」そろそろあがりたい。
もう心臓がパクパクしている。ネコの身体は小さいだけに限界が早い。
「ん、わかった。」
スザクがルルーシュを抱き上げて、たらいをひっくり返す。
ざっぷん。しぶきが飛ぶ。‥‥‥どうしてこういちいち乱暴なんだろう。ルルーシュは少し不思議に思う。
スザクの手を離れて、ぶるぶる、と身を振るわせる。水滴を払い終わったら、後ろ足で耳の後ろも、カリカリする。
「ちょっと待っててね。」
ルルーシュを包む、白いふかふかのタオル。
お風呂は後片付けのほうが大変なのだ。しかし、ネコの身では後片付けを変わってやることも出来ない。
仕方がないのでルルーシュはおとなしくすくんでいる。
まぶたがだんだん重くなる。
「ルルーシュ‥‥?」
風呂場の後片付けはどったんばったんと派手な音を立てつつ済ませたスザクだが、ここからさきはいつも慎重だ。
ほんのり水気を帯びたままのルルーシュにもう一枚タオルを重ねてみる。‥‥動く様子はない。
背中をそうっとさするようなキモチで水気をふき取る。
このまま目覚めなければいい。
タオルをおくるみよろしく使い、仔猫の身体をベッドに運び込む。
このまま起きなければ、ご褒美にこの小さなネコを腕に抱きながら眠る特権が与えられるのである。スザクの心を捉えて放さない、その存在を。