アーニャのお誕生日に寄せて。
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皇子様は庭園にいた。
自分を見てにこっと笑った。
「ナナリーと同い年なんだってね。聞いているよ。‥‥これからよろしくお願いいたします。」
頭は下げない。‥‥皇子様だから。
だけど優しく微笑んでくれた。
その手には赤いバラ。
ぱちくりとアーニャは瞬いた。
「‥‥‥夢。」
自分の大事なメモリーの中に、皇子様がいる。
けれど、アーニャにはその人に逢った記憶がない。
でも、記憶にないからこそ、そのメモリーは大事だった。「彼」はそこにしか居ないから。
だからずっと、残してあった。
そんな風に意識のない記憶のログは時々混ざりこんでいることがある。
意識のない自分が、どこかにいる。恐ろしいことだ。だからこそ、些細なこともなるべく記録している。
そして見返しては安心する。何度も反芻できる事に。‥‥たとえそこに前後の記憶のない画像が含まれていても、見返さずにはいられない。
けれど夢は画像では再現できない。
もう一度見たいと願っても、往々にして上手くいかない。
だから‥‥、夢は記録に残せない。
皇子様が、話し掛けてくれた。
思えばそれが、「夢のような」出来事だ。
今ではラウンズとなったアーニャはたくさんの皇族を見てきた。
どの方にも一定の敬意は払うが、特別な思い入れをもったりはしていない。そのスタンスだけはキープしている。
けれど、あのひとはトクベツなひとだ。なんとなくそんな気がする。
自分がそう思うのか。自分でない自分がそう思うのか、それは分からない。
朝の光をベッドで浴びながらアーニャは、はふっと息ををつく。
ケータイの画像をもう一度見てみる。
あのひとはルルーシュ?‥‥だって瞳の色が同じ。
アーニャは、初めて通った「学校」の「センパイ」を思い浮かべる。
自分が無くした記憶の半分をあのひとは持っているだろうか。
ルルーシュに逢ったから、夢を見たのか。
それとも封じられた記憶がちらりと姿を見せたのか。
‥‥‥‥わからない。
「コレは、ルルーシュ?」
返事はもらえなかった。あのときは。
今日は「学校」に行く。
「オシゴト」は帰ってきてから。ナナリー様は自分たちが「学校」に通うことを喜んでくれている。
何かお土産を探してこよう。‥‥そう思う。
夢も、写真も、ナナリーとは共有できない。
だけど何か見つけよう。
「ナナリーと仲良くしてね。」
夢の中の皇子様の言葉は紛れて消えてしまったけど。
それでも彼女の中には何かが残っているのかもしれない。
INDEX
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ちっとも祝われてない‥‥。
ゴメン。アーニャ。またいつかなんとかしたいものですね。