Cの世界でボクたちは

一息に読むにはちょっと長め?読みにくいかもしれません。

※※※※※※

抜き身の剣をぐっと構えた。
「ルルーシュはユフィの仇だ。」
 避けては通れないことが。有耶無耶にはできないことが、二人の間にはある。筋目を通すために剣を握っているのだから。
 スザクは答えが欲しかった。だからこそ、切先をルルーシュに向けた。
「………だから?」
 ルルーシュが応えた。
 
とたんに青みがかった銀の光がルルーシュの前に立ちふさがった。
「ロロ?」
ルルーシュが叫ぶ。
スザクには見えない。ただ青銀の光の盾に見える。
「兄さんは、ボクが守る!」
「やめるんだ、ロロ!」
 
「兄さん」があの手この手でロロを説得し宥めすかし篭絡している間、スザクは何が起こったのか理解しきれずに呆然としていた。
「もう少し、落ち着け。」
「おとなしく眠るんだ。そんなことはやめなさい、と言っているだろう。」
「オマエは人殺しなんてしなくていいんだ。」
「お前はもう死んでいるんだから。」
ロロ?ロロって、弟役の?
「約束しただろ?お前にウソはつかないよ。」
    なんだ………って?アイツ今なんて言った?………ちょっと、ルルーシュ!なんだよ「ウソはつかない」って。言われてみたいよ。
役だろ?単なる。いや、今、気にするべきところはソコじゃない。たぶん。
でも、でも・でも・でも。単なる「役」だったろ?
なんだろうあのエガオ。なんだろうあの甘い声。
ルルーシュの腕の中でモンダイの銀の影が溶けたのが見えた。
「大丈夫、安心して眠るんだ。」
 なんだその優しいコトバ。
 理解できない。理解できないぞ。
 そうだここは死んだヒトとも逢える世界。……ロロも死んでいるのか?どうして?ルルーシュが殺したんじゃないよね?
 スザクはぐるっと周りを見た。
 
 
 おおおおおおおお
 たくさんの影が流れている。
 人がたくさん死んだんだな、ポツリと、ルルーシュがつぶやく。
 ああ、フレイアが、……フレイアを自分が撃ったから。
 スザクにもたくさんの人の波が見える。
 ゼロさま………。声は波打つ。
 イレブンと呼ばれた日本人達の希望。
 儚い望みがルルーシュの周りで光の渦を作る。
 ルルーシュは、優しく微笑んでいる。何もできることがないからだろうか。
 多くの影がゼロを求めている。
 
 
「井上。あなたか。」
 ルルーシュの声が誰かの影に応えた。優しい顔をしていると思う。不思議なほど。
「扇も南も、カレンも……応援してやってくれ。」
「無茶な作戦に何度もつき合わせて悪かった。」
「ありがとう。感謝している。」
 
 
「卜部。おまえか。」
また、ルルーシュの側に、影が立つ。
「お前が望んだほどには、……できなかったよ。だが、藤堂はまだ闘うはずだ。日本は俺が救うのではなく、自力で立ち上がるべきだろう?」
藤堂……。それは、藤堂さんのことか。
「きっと、それでいいんだよ。」
 ルルーシュの手が目のふちを擦ったのが見えた。
「お前に護られた分に見合うかどうかはわからんが、これでも精一杯、働いたぞ。」
 顔を上げながら、ルルーシュが言う。
「人間1人にできることなんて、限界があるに決まってるじゃないか。」
 苦笑。
 ゼロがそんなことを言う……?それはスザクには不思議な言葉だった。だってゼロはいくつも奇跡を起こしてきたのに?
「ああ、日本は死んでない。これからだ。」
 トーキョー租界には大きな穴が開いている。それなのに。キミはそう言えるの?
 そうだ、ルルーシュはたくさんの人の希望と願いを一身に引き受けてきた。
 したたかな嘘とともに。
「お前の信頼に、感謝する。たくさんの時間を、ありがとう。」
 ああ、小さな光が融けた。
 
 
 
スザクの前にはオレンジの影が立ちはだかった。
スザクにはそれが誰なのかすぐ分かった。
「ダメよ、スザク君。ルルをいじめちゃ。」
そうだ。彼女は、ルルーシュのことを、ルルと呼ぶ。
「なあに、その剣。そんなのルルに向けてどうしようって言うの?」
「シャーリー?キミ……?」
 
 
「ああ。怒ってません。」
 ルルーシュが面倒くさそうに誰かと話をしている。
「アナタがワタシを殺そうとするからいけないんですよ。………ええ、ワタシを狙ったわけじゃないことは知っています。でも、殺されかかったほうはたまったものじゃないですよ。ワタシもスザクも。」
 ひきあいに出された自分の名前に、スザクは思わず顔を上げた。
「兄さん、少々しつこいですよ。」
 ルルーシュがふわっと手を払った。
「あなたが虐殺とか行うからいけないんです。ああいうことは迷惑です。」
 何の話をしているんだろう。
「生まれ変わっても、また兄弟に……?嫌ですよ。ごめんこうむります」
「絶対、嫌です。……大体そんなとってつけたような日本かぶれの発想で……。」
 そういえば、ルルーシュが昔、輪廻は東洋特有の宗教思想なのだと言っていたな…と、スザクはなんだか懐かしい時代を思い浮かべた。
「ああもう、泣いても何も変わりません。兄さん。」
「大体ですね。遊園地だの美術館だの……生活するのでさえギリギリの日本人達のことを少しは考えてみたことがありましたか?」
 スザクは知っている。ルルーシュは結構短気だ。今は、彼にしては、辛抱強く話をしている方だろう。
「アナタの泣きべそとか嘘くさくて、信用ならないし。ちゃんと仕事をしないというのは本当に迷惑で……はいはい。わかりました。」
 おてあげ、というように、片手をあげる。
「とにかく私は怒ってませんから。」
ふふっとルルーシュが笑った。スザクは遠くであんぐり口を開ける。
「腹違いとは言え、実の兄だ、とあなたが言ったじゃないですか。」
 キレイナ笑顔。あれは反則だ。
「あなたを死なせたことで、すべてが始まったんです。あなたを殺さなくては何一つ変えることはできなかった。それだけです。」
「あなたが怒ってもいいんですよ。怒らないんですか?」
 昏い目。瞳に剣呑なものが宿る。
「C.C.を横取りした、って責めてもいいんですよ。あなたがずっと捕縛していたのだから。」
「私に殺されて、悔しいのでしょう?」
 もう一度、ルルーシュが言う。あなたは怒ってもいいんですよ。そのコトバとともにルルーシュの目の中に苛烈なものが浮いている。けれどそれは、そのままかすんで消えた。
「……それならもう、いいじゃないですか。」
 また一つ光が溶けていく。
 
 
 スザクの方は……。スザクには目の前のシャーリーを眠らせてやることなどできるわけがない。さっきから間合いすら測れないで困惑している。
 今も鼻先に指を突きつけられ、彼女は何事か訴えている。
「ちょっと!聞いてなかったでしょ」
はい、すみません。
「あたし、ルルが好きなの。ルルを守ってあげたいの。」
「シャーリー……、あの……ちょっと、落ち着いてくれないかな。」
 シャーリー相手では殴るわけにもいかないし。というか、殴ってもどうせ届かないだろうけど。とても実体があるとは思えないし。何を言ったらいいんだろう。というか何を言っても聞こえてないような気がするんだけど。女の子の説得なんて、荷が重い。明らかに苦手分野だ。スザクは途方にくれている。
 ここでは剣は何の役にも立たないのかも知れない。
 だけどスザクには握りこんだ柄を放すことができなかった。
 それが唯一の自分の力だからだ。
 
 
助けを求めてルルーシュを見れば、そこにはうす桃色の光が満ちていた。
さっきとは違う。優しい光だ。
「ルルーシュ、ルルーシュ、大好きよ。」
 光がそう言っている。
 ルルーシュがまた甘い顔をしている。
「大丈夫。ワタシのことなら心配いらないんだよ。」
 そう言ったルルーシュは、目をそらし。……こちらを見た。
 スザクと目が、あった。
 ルルーシュは、自分を見ているスザクを見て目を瞠り、薄桃色の光に向かって何かしら話しかけた。
「ユフィ………、キミの騎士だ。スザクはずっと泣いてるんだよ。」
 ユフィ……ユフィなの……か?
「ルルーシュ……君、ユフィ……とは……。」
 スザクはあわわと口に出した。
 ルルーシュが、はて、と首をひねった。
「ユーフェミアはワタシの妹だが。」
 知っていたはずじゃなかったか……?と。
 知っている。それはよくわかっていたはずだった。
 というか、そんなに仲良しなんて。そんなはずない。
 だって。だって。ルルーシュが。………ゼロがユフィに……。
 でも、確かにナナリーはユフィを大好きで……。仲良しだったって言ってて‥‥。
 
 
 答えが出ないまま、目を白黒させているスザクを前にして、シャーリーはまだ畳み掛けてくる。
 そうだ、彼女は。
「ね、シャーリー、ルルーシュはあそこに……。」
 ぼくなんかじゃなくて。ルルーシュと話をするべきで。
 
 ふたたび。はじめにみたあの青い光がルルーシュのそばに、チラッと浮いた。
 
 シャーリーは盛大に照れていた。ああ、そんな様子を見たら誰でも応援したくなるよね。スザクは思う。シャーリーはステキな子なのだから。どんなにルルーシュを好きなのか彼女は隠さない。だから、シャーリーの気持ちをスザクも知っている。スザクはシャーリーが好きだった。だってシャーリーはルルーシュのことを好きでいてくれるから。自分のできないことをしてくれる、そんな身勝手な想いが根底にあることを、スザク自身では気がつけない。ただ、シャーリーが一生懸命になっていると応援してあげたくなる、彼が自分で理解できるのはそこまでなのだ。
思えば、シャーリーの死がルルーシュのせいだと何の根拠もなく思ったときにスザクの心に湧いた憎しみは、気持ちが通じなかった恨みでしかない。重ねていた気持ちが恨みの刃になっただけで。ほら、現にシャーリー自身はルルーシュに何の遺恨も持っていない。スザクの心に沈んでいる恨み。それがスザクにはわからない。雁字搦めになっているから、自分の気持も見えてこないのだ。
 
 ようやく、彼女がルルーシュに向く。
「あ、あの。ルル。あのね………?」
 シャーリーを目の前にしたルルーシュが、とっても痛い顔をした。
 彼は今腕の中に、あの青い光を封じ込めようとしている。
 
 
 でもそんなことはじきにスザクには見えなくなった。
 だって目の前にユフィがいる。
 ユフィが、きらきらしてる。
 話を…、って、話さなくちゃいけないことなんかあっただろうか。
 スザクの力を、スザクの剣を、正しく使ってくれるはずの彼女の理想。スザクの光。
 混乱している自分を。悩んでばかりいる自分を、きっと彼女が導いてくれると思っていた。
「スザク、仲良くしてね。」
学校に行って、友達を作って。それと同じ事を言うように。
 ルルーシュと……。ユフィが言う。
「ユフィ……君、ルルーシュと……。」
ユフィが。
「ナナリーとよく、取り合いをしたわ。でも、ルルーシュは意地っ張りだから、絶対認めてくれないの。」
 ユフィ、だけどボクは。………だけどボクは。
 迷うスザクをユーフェミアが優しく微笑んで見守る。スザクに姉が居たらきっとこんな優しい人だっただろう。
「スザクはやさしいひとです。スザクのことが、大好きです。スザクは私にできないことができるの。」
 私を好きになりなさい、と彼女は言ってくれた。
 ユフィの暖かい気持ちは、いつでも心に……。
 
 
ナナリー。
名前が出てはじめて気がついた。
ルルーシュはさっきからむしろ貪欲に、周りの光を受け入れていた。
 
ああ、そうか……。
周りに順応できなくてただ呆然としていたスザクとは違う。
むしろ、必死に。
小さな光を手繰るように。
そのがむしゃらな態度を。知っていた。
だって。それだけは、わかりやすいから。いつも、彼の行動原理は同じなのだから。
 
自分はついさっき、「言い訳に使うな」と責めたけど。
けれど。彼には他に、「理由」がないのだ。
 
 
「大丈夫だよ。シャーリー。ワタシのことなら心配要らない。」
むこうでルルーシュがなんか言ってる。
「ああ、そうだね。シャーリー。また逢おう。」
 あいつ、なんかさっきも同じこと言ってなかったか?
「……ああ、そうだね。記憶なんかなくても。きっと……。」
 キオク。
 意識の奥で何かが明滅する。
 あのふたりケンカしたんだって。他人ごっこに付き合ってやってくれって、会長が……。
 それは、ブラックリベリオンの前のことだ。ルルーシュが居なかったあのとき。あの時にも、なにかが起こっていたのか。
 死の直前に逢ったシャーリーはそういえば様子がおかしくなかったか?
 そんなことする子じゃないわ!ってカレンが言ったけど。だけど彼女は僕らの目の前で飛び降りようとしたじゃないか。
 その後大事な話をした。シャーリーはまっすぐにルルが好きなのって言った。透き通るようできれいな強い瞳。とっても可愛い彼女。
あの時一体何が。なぜ自分は気がついてあげられなかったんだろう。なにが。一体何が。
 初めてシャーリーのことで、そこまで思考が届いたような気がした。ルルーシュが関わっているはず、と直感で思って。それからずっと、何も考えられなかった。なにもかもあんまり突然の出来事だったから。
 
 
 でも。何があったにしろ。シャーリーはまっすぐに、ルルーシュを大好きなのだ。
 それに応えるルルーシュが、優しく言う。
「何度逢っても、きっとまた友達になれるよ。」
  え?………今の言葉?なに?
ルルーシュ…、今更、それ?…………それ、ダメだろう………。キミ……。
スザクはなぜか猛烈に謝りたくなった。シャーリーに。
ヒトには天然だとかよく言うのに。ルルーシュって相当ヒドイ。
どっと、肩から力が抜けて、ため息まで出た。
「あいつに何を期待しているんだ。無理に決まっているだろう。」
 横からC.C.が言った。ええ?とスザクは思わず振り返る。
「まあ、友達でもキスぐらいはしてやれるからな。」
 えええ?そうなんだ、と受け止めつつそれはそれでショックだし、だがしかし、それならなお、いけないだろうと思ったりする。お友達宣言…、ってそれは、女の子には恋心の死亡宣告じゃないか。
「あいつはほんとうに、色恋には晩熟だからな。あきらめろ。」
 はあ。なんとなく後ろめたい気分のまま、ルルーシュの顔をこっそり覗き見る。
 ああ、でも、キレイな笑顔だ。ヒドイことを言っているという自覚などまったくなさそうだ。
 ルルーシュはこういうヤツなんだから。 
シャーリーも仕方がないって思うのだろうな…。
 
 
キオク……
スザクはずっと、苦しかった。ルルーシュにユフィの死の真相を尋ねることができなくて。この目で見たはずのものが信じられなくても、ルルーシュに問いただすこともできなくて。なぜならルルーシュの記憶は封じられてしまったから。キオクが封じられて、スザクは大事な友達を失った。
ルルーシュは……ルルーシュも。あの頃のシャーリーのキオクを封じたのか?
ヒドイ。なんてヒドイ。それはしてはいけないことだ。……でも、それなら、苦しいのはルルーシュのほうだ。
わざわざそんなことをしたのなら、そこにきっと何か理由があったのだろう。ようやく、そう思うことができた。
 
 
自分は。
ただユフィを失った悲しみを。一緒に。
一緒に共有したかったのだ。
あらためてそれに気がつく。
 
ルルーシュがゼロと名乗って。
自分には理解できないようなことをしでかして。
ギアス。……そんなよくわからない力を、人に向けて。
ちっとも自分に気持ちを見せなくて。スザクに嘘をついてて。
だから。怒っていたのだ。
 
 
握った剣が重く感じた。
この剣を、誰も咎めてくれない。
 
 
スザクがいつまでも握っている剣に反応したのかもしれない。
青い光がやっぱり盾のように立ちふさがっている。
「ローロ。」
優しくたしなめる声がして、光が揺れる。
 
 
「ねえ、ルルーシュ。ロロはどうして死んだの。……キミが殺したの。」
 ルルーシュが、笑った。口元をゆがめて。
「そんな様なものだな。」
「っ……うわっ。」
 青い光が槍の様にスザクに向けて攻撃的になる。いくつもいくつも、飛んでくる。
「待つんだ。ロロっ。」
 ルルーシュが叫んだ。
「いい子だから。やめなさいっ。ロロ、おまえはそんなことしなくていいっ。」
 スザクは飛びすさり、距離をとる。自然スザクの表情は厳しくなる。………これが、ロロ。
 でもその青い光もルルーシュにまとわりつくように揺らいで、それから冷えていく。ルルーシュがせっせと何か言っている。それで、吹き荒れた嵐は、なんのかんのでおさまってゆく。
「……ねえ、ルルーシュ。ロロが怒っていたみたいなんだけど。」とりあえず、訊いてみる。
「カルシウム不足かな?……この子は感情の揺れが大きいんだよ。」
 いや、それなんか違うだろう。
 
 はあ、っとルルーシュがタメイキをついてみせる。
「スザク、オマエはロロのことをどのくらい知っている……?」
 え?とスザクは首をかしげた。
「出身とか。ホントの名前とか……いや、いい。……コイツは俺の弟だ。」
 言いながら首を振って。ふわっと、やさしく。ルルーシュが笑った。
 それから改めてチラッとスザクのカオをみる。自分の様子を探る視線。スザクはなんとなく不愉快な気分になる。
「一応、機情局とやらは、……軍の所属なんだよな?皇帝直轄だという話だが。ナイトオブラウンズとは……」
「ああ、僕のところに連絡はつながってた。聞いてたのは僕一人だけど。ロロはキミの弟役でキミの監視役で………。」
 ルルーシュは迷っているようだった。伏せた目が言葉を選んでいる。
「ロロがギアス能力者なのは……?」スザクは黙った。ぽつぽつと、ルルーシュが話し始める。「ロロのギアスは時間を止めるんだ……。ああ、ギアスというのはそもそも能力にバラエティがあるみたいで……。ってそれは知ってるか。オレのとオヤジのは違ったもんな。で、ロロのギアスは相手の目を見たりする必要はないんだけど、時間を止めている間、自分の心臓も止まるんだ。」また、ため息。「そもそも、ギアスは使いすぎては身を滅ぼすものなんだが。ロロのはまさに、自分の身体を削るもので。」
 そこまで話したところで、また、ルルーシュが、ちょっと迷った。
「オレが、ちょっと、黒の騎士団の内部で揉めて……。危ないと思ったロロが、ギアスをつかって助けてくれたんだ。」
 ため息。
「何回も広域でぶっ続けで使えば。どうなるかは分かっていたのだがな……。」
     黒の騎士団で、揉めた……?」
 ルルーシュの目が瞬いた。
「正体がバレたんだ。さすがに、ブリタニアの元皇子が反乱軍のリーダーやってるのは、マズイだろう?……兄上にしてやられたよ。」
「それだけじゃ、ないんだろう?」
 横から、C.C.がなんか言ってる。「それもしかたがないだろう。」あっさりルルーシュが返している。視線のやり取りにはじき出されたスザクは二人の会話についていけてない。
 
「ロロはかわいい弟だったよ」
 ふと、ルルーシュが言った。
 ロロとは血がつながってないから。だから、嘘じゃないって、何度でも言ってやらないと、ダメなんだ。
 少し、気が強すぎるかな?そそっかしいし、早とちりも多いし。ずいぶんはねっかえりなんだ。ルルーシュの指が、何かに戯れている。
 この柔らかい表情は何処からくるのだろう。
 
 
 ルルーシュの目はスザクの剣を見ている。
 オレはずっと、オマエをブリタニア軍から引き抜きたかった。解放できると思っていた。
だが、結局……こんな形にしかならないのだな……。
 ここでオレが死んだらおまえは救われるのか?
 もともとオマエに拾われた命だ。構わない。だが、ここで殺されるわけにもいかないようだ。
 どうせなら、場を整えてからにしてくれ。
 そのくらい、赦してくれてもいいだろう?
 ルルーシュの言葉。言い訳っぽい。その場しのぎの言葉に聞こえる。
 きっと、ルルーシュの気持ちは他にある。けれど彼の本当は見つからない。
 ボクは。ボクは……。
 
 
 
「で、C.C.。オレのこの身体は、あとどれくらい持つかな?」
ぐっと、C.C.が口をつぐんだ。
「意識が蝕まれる前に、まだ、できることがあるのなら……。」
 ルルーシュが言い募る。
「皇帝シャルルが死んだ。それだけでは……。だが、そこに物語があれば。もしかしたら。」
 ここまで来たつながりに。これからの未来に。一つぐらいプレゼントがあってもいいじゃないか。
 ルルーシュが、……物語は必要だ、ってまた言った。
 あのときも言われたその言葉の意味は、実はスザクには今だによくわかっていない。
 ただ、言葉を反芻するので精一杯。
 
 スザクが断れないように、ルルーシュは話を持っていく。
 ずるいぞルルーシュ、勝手なんだよ、キミは。
 ごまかされないぞ、と肝に命じる。
 
 
「ねえ、ルルーシュ。僕も約束が欲しい。もう、君の嘘は聞きたくない。本音が聞きたいし、訊いたことにはちゃんと答えて欲しい。隠し事も秘密もナイショも、もうたくさんだ。」
 ルルーシュが難しい顔をした。
「説明したってお前には通じないだろう。そもそもオレにもわからないことは多いし。」
 どうして。どうしてこんなときに馬鹿扱いなんだ。自分は今、すごく大事なことを言ったつもりだったのに。
「ボクが聞きたいのは………。」
 ボクが聞きたいのはキミの気持ちなんだよ、と言おうとして、それがまた、ルルーシュ本人にこそわからないことが多いのだろうな、と思い至る。
 そしてスザクは肩を落としてため息をつく。
「クルルギ。もういいじゃないか。オマエはがんばったよ。」
 と、横からC.C.が言う。………ヒドイ。
 
 
「CC……オマエは?ここから外に出てもオマエはお前でいられるか?」
くすっとCCが笑う。
「心配性だな、ぼうや。」
「ああ、さすがに。少しばかり、心細いのでな。」
ルルーシュが言う。
お前がいなくなるのは、さすがに怖いよ。
コードもキオクも封じるのは、勘弁してくれ。
………キオク。
ルルーシュの言葉がスザクの耳を引っ掻く。
それはすごく大事なもの。
 ボクが僕であるために。キミがキミであるために。
 
 
 
 なんとなくスザクはグーを握って胸に当てた。
 ボクは忘れない。絶対、忘れない。
 だから。        だから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

INDEX

 
 
 
※※※※※※
 
できたらじっくりお楽しみいただきたいのですが、一頁でってどうなんだろう。悩みどころです。
 
このままでは「人々が明日を望んでいることを」知ることはないのですが‥‥‥。
いつかまたリトライしてみたいテーマです。